ハイブリッド、
そして光と翳と

1987
TOTOギャラリー間

美術が、過去の儀式や装飾への郷愁に耽溺する世紀末現象を見せてきている今日、私はインダストリアル・デザイナーの前衛的な活力に救いを見いだしている。バウハウス以来このデザイナーたちは、機械がもたらす幾何学的で静止的なフォルムを強調させることに腐心してきたわけだが、イタリアで仕事をしてきた川上元美には、これに加えて、東洋的な感覚と西洋的な感覚とをいかに調和させるかという問もかせられていたに違いない。この問題は察するに、マテリアルを鋭く追求する西洋的感覚と、情緒を享受せんとする東洋的感覚の相克であったはずである。幸いにして川上元美は、これらの接点から彼の個性をひきだす。彼はおそらく、素材をデザインのディテールとして認識する極めて現代的な感覚をそなえているのであろう。だから彼は、新しい素材を開発するばかりでなく、伝統的な素材のなかにも新鮮な内容を発見することができる。その素材を調律されたディテールとして生かしつつ、シトー派建築のごときシンプルでヒューマニスティックな形の世界を作り出す。
木島俊介(美術評論家)